アームチェア 45
アルテックらしいインテリアの根源「マイレア邸」
アイノとアルヴァ・アアルトが手掛けたモダニズム住宅建築の傑作「マイレア邸」が、いかにしてアルテックを象徴するインテリアになったのか。
「見てごらん、なんて素晴らしい家なんだろう。」
ハッリ・グリクセンは、1939 年のニューヨーク万国博覧会に展示された、新築の自邸の写真を見て、妻のマイレ・グリクセンに言いました。それから時は流れ、彼の言葉は真実として証明されました。マイレ・グリクセンは、アイノとアルヴァ・アアルトが設計し、建築した自邸「マイレア邸」を「最愛の家」と呼びました。
住宅における機能と芸術的表現の融合というアアルト夫妻の挑戦を最も忠実に実現した最初の例が「マイレア邸」です。インテリアは、アイノ・アアルトが中心に指揮をとりました。住む人にとっての温かみと快適さが何より優先され、芸術的な美の追求においてはいかなる妥協をせず、同時に機能性も軽視しない、アルテックのデザイン哲学のすべてが空間に凝縮されました。
機能と芸術性を融合した表現
アアルト夫妻はデザインの面で大きな自由を与えられていましたが、設計から建設までのプロセスでは、グリクセン夫妻と密に協力しました。マイレとハッリ・グリクセンは、当時、最先端のモダンな暮らしを送っていた先駆者であったため、アアルト夫妻は、彼らの好みや意見を大いに尊重しました。
両夫婦が目指したのは、日々のありふれた暮らしの中にある美を讃えることであり、モダニズムの哲学が息づく環境、住宅を創造することでした。アルヴァ・アアルトは、建築、インテリア、家具、照明、素材、すべての要素が融合し、総合的な芸術作品として統一された「マイレア邸」のことを「交響的な存在」と呼びました。さまざまな要素がコラージュされ、互いに影響し合いながら空間を埋め尽くし、そこから続くリビングエリアは、毅然とした独自のアイデンティティを維持しています。
世界中から集めた自然素材
「マイレア邸」に脚を踏み入れると、居住空間とそこに存在する物が対話していることに気づきます。エントランスホールには、モダニズムを代表するアーティストであるアレクサンダー・カルダーのモビールが吊られ、階段脇に配置された竹林のような木製の仕切りは、アルヴァ・アアルトが賞賛した日本建築の影響を反映しています。1階のフロアを覆うモロッカンラグが、心地よい触感を生み出すと同時に、オープンエリアに響きわたる音を緩和します。
用いられた高品質な自然素材は、広大すぎる空間に温かく素朴な雰囲気を添えています。建物の構造と家具は最高品質の木材を基調とし、ディテールにあしらわれる革、靱皮、竹、ガラスなどの素材がそれぞれを惹きたて合います。家具や照明器具のほとんどは、アイノ・アアルトによってマイレア邸のために特別にカスタマイズされました。「ラウンジチェア 506 マイレア」など、特注家具の一部は、アルテックが長年製造することになるスタンダード製品の基礎になりました。
竣工から80 年以上が経過した「マイレア邸」は、現代においてもモダニズム住宅建築の傑作として広く知られています。マイレ・グリクセンとハッリ・グリクセンの子孫たちが、家族の家として今も暮らし、団らんに使用しており、建設当初のオリジナルからほとんど変わっていません。これは、アアルト夫妻が打ち立てた美学が、時代を超越していることの証です。アルテックは、現代もなお、その精神を受け継ぎ追求し続けています。