ロープ程あらゆる用途に利用できる素材もないでしょう。強度が保たれる限り、狩猟や釣り、運搬の際の固定、ロッククライミング、乗馬の手綱、縄跳びや綱引きまで、その使い道は無限です。ロープの起源を辿ると、少なくとも15,000年前にまで遡ります。フランスのラスコーの洞窟では、編み込まれた植物の繊維のかけらが見つかっていますし、古代文明でピラミッドや神殿などを建てる際にもおそらくロープが使われていたでしょう。ロープという道具が、人類の文化的、技術的な発展に重要な役割を果たしてきたといっても過言ではないかもしれません。
これだけの長い歴史と多用途性がありながら、今までロープが家具の重要な部品として使われたことがないという事実に驚いてしまいます。2年以上前から、まったく新たな椅子のデザインアプローチを探していたロナン&エルワン・ブルレックもまた、その事実に気づいたときは驚きと興奮に包まれたといいます。
ロナン&エルワン・ブルレックは手描きのスケッチからデザインを始めることで知られています。一筆書きで描いたこの椅子の直線的で優美なデザインはロープそのものかのよう。原点のような姿には何も加える必要はありませんでした。
何千年にもわたって海や船上などで使われてきたロープの適応性を利用し、腰かける人の体重を柔軟に支える快適性、そして腰かける人のフォルムを留めることで座る人によってもまたデザインされる、まったく新たな発想から生みだされています。ブラックとライトグレーの2色展開、ロープは、ブラックがポリエステル、ナチュラルはフラックス(亜麻)と、色に合う素材を選んでいます。
シンプルな線画が三次元に変換され、空間にその姿を現す ― まるでゆらぐ影のような芸術的なシルエットの「ロープ チェア」は、アルテックが創業時より追求し続ける「アート(芸術)」と「テクノロジー(技術)」の融合を現代に継承する製品であり、ロナン&エルワン・ブルレックとの三回目の協業により生まれた作品です。