アルテック製品は、修理や張替えを重ねることでいつまでも使うことができ、時代や文化を越えて愛され続けています。今や世界中に広がっているアルテックの友人やパートナーたちは、アルテックのデザインをこよなく愛し、人生をともに過ごしています。親愛なる友人たちに、アルテック製品への想いを聞きました。
濱田伸行さんは手紙の中でこう綴ります。
今からちょうど20年前、組み立て式の2脚の丸いスツールが我が家にやってきました。当時、新しいアパートで使うための椅子を探していた私は、先々で出会うこのバーチ材のスツールが「スツール E60」呼ばれていることや、1930年代にデザインされたフィンランドの製品ということは知っていたものの、それに触れたことも、座ったこともありませんでした。シンプルなフォルムに、高い汎用性と積み重ね機能も備えていたスツールE60は、一人暮らしで使うダイニングチェアとしては、実際、大いに活躍してくれました。
今でもはっきり覚えているのが最初に手にした時の重量感です。組み立ては自分で行うため、下穴を頼りにネジの1つ1つを集中して廻し、脚を取り付けていきます。1本、2本と取り付けられる脚と共に少しずつ重みが増し、正統な椅子を使う事の覚悟のようなものを感じました。見た目よりもずっしりとした完成品に座ってみると、今度は、見た目よりも抜群な安定感がある事に好感を持ちました。1台は娘に譲り、現在まで毎日座っていますが、全くびくともしていません。
スツールE60は、「L-レッグ」と呼ばれる無垢の角材を曲げた脚のパーツに直接背中をネジ留めしています。L-レッグは、曲げる角度や角材の太さ長さ、取り付けの方向や他のパーツとの組み合わせによって、スツールをはじめ、ダイニングチェアやテーブル、ベンチ、ベッドフレームなど様々な製品が発想されてきた様です。強度が高く、狂いの少ないL-レッグは、製品に絶対的な安定感をもたらし、デザインの統一感の要になるパーツだと思います。
以前、高齢のご婦人から「チェア 66」の修理の問い合わせを受けたことがありました。依頼品は購入から40年以上経ったもので、背中を後脚に取り付けるための木ネジが長年の使用で緩み、その上で通常以上の負荷が掛かった衝撃で背中の合板が損傷した状態でした。他のパーツは全て問題ありませんでしたが、ネジ穴の位置などの調整を覚悟し背中のパーツを取り寄せました。結果、フィンランドから届いた新品のパーツを取り付けるのに、ネジ穴の調整等は全く必要なく、スムーズに元の状態に戻せたのです。背中だけを新品に取り換えた椅子をご婦人のお宅に届けると、何の心配もなく、この先も毎日使える事と、1970年代と2010年代のパーツが同居する個性的な椅子が出来た事を大変喜んでいただけました。
工房には、*Warlegの様な大変古いアルテックの製品修理が稀に持ち込まれることがあります。スツールE60で最初にアルテックに家具に出会った私の目線からすると、3世代以上前の親戚が現れたような感じでしょうか。座面の張り替えが主な作業なので、大概は古くなったカバーを外す作業から始まります。前のオーナーが創意工夫で張り替えた様子や工場制作時に記されたであろう手書きの指示など様々な痕跡がカバーの中に長い間眠っていて、見つけては背景を想像して楽しんでいます。古い釘の跡は年季の入った職人さんの仕事を思い起こさせ、時代と国境を超えた対話が出来たような気がしたその日は、一日中良い気分で仕事に集中できるのです。
*すべての資材が不足していた第二次大戦中に製造されていた脚の一種で、L-レッグよりも接着剤が少なくて済むような構造をしている。