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90周年 アニバーサリー ポスター

二次元と三次元の表現

Artek 90 Anniversary Posterin situ landscape 1

私は、インカ・ベルに早朝の取材について謝罪し、顔をあげると、彼女のスタジオの壁に並ぶ数々のポスターやプリントに目を奪われました。展覧会のキュレーターとしても活躍できそうですね、と思わず提案してしまったほどです。「取材でお見せできるのは、かろうじてこの場所だけです。狭すぎて!」そう言ってカメラのメモリーから、箱、機械、道具、材料などで散らかった部屋を見せてくれました。彼女の隣には紙でできた塔のような物体。それは放棄された彫刻です。「彫刻は、2-3年前にやめたんです。でも、まだそこにあります。どこに置けばいいのか分からないので。いつかまた彫り出すかもしれないし。適切なタイミングを待っています。」幸運にも、その機会は最近やってきました。彼女に、最近完成したばかりの、アルテック「90周年 アニバーサリーポスター」について聞きました。

Inka Bell portrait Photo Paavo Lehtonen 2023 master
Inka Bell Artek 90 Anniversary Poster without shadow

JJ: アートとデザインの融合は、いつの時代もアルテックというブランドにとって大切な要素でした。あなたとあなたの作品もその一部に加わります。このコラボレーションはどのようにして実現したのですか? 

IB: 私は、以前グラフィックデザイナーとして働いていました。アルテックの仕事も請け負っている、あるデザイン事務所を共同設立しましたが、アート活動に専念するためにその事務所を離れ、独立しました。当時から、アルテックのデザインと世界観が好きで、アルテックとの仕事は楽しかったです。少し前、ヘルシンキのアルテックストアでも二回ほど個展をやらせてもらいました。そのため、今回のポスターのデザインについても、自然な流れで声をかけてもらいました。円形や四角形などシンプルなフォルムのアルテックの家具は、私の幾何学的な作品と重なります。また、私は木材ではなく紙を材料にしていますが、自然素材に焦点を当てている点でも共通しています。

JJ: アアルト夫妻が作った家具やデザインは、現代でもフィンランドの暮らしと精神性に深く根付いていると言われています。

IB: そうですね、フィンランドで育ったらアアルトを避けて通ることはできません!たとえ自宅に家具を持っていなくても、図書館など多くの公共空間でアアルトのデザインに出会います。アアルト夫妻のデザインやデザインアプローチ、彼らの哲学や解釈は、フィンランドに育つすべての人に影響を与えていると言っても過言ではありません。私にとって、それは、素材を研究し理解すること、シンプルで普遍的な作品を追求することです。

Inka Bell Origo 4 2024
「私の作品とアルテックは、自然素材という共通点があります。私の場合は木材ではなく紙ですけどね。」
Inka Bell Around Public Artwork at Pakila Comprehensive School 2024
パブリックアート、パキラ総合学校とデイケアセンター、2024

JJ:どのようにグラフィックデザインからアートの分野へと移行したのですか?

IB: グラフィックデザイナーだった時から、印刷物に興味がありました。特定の形にどの色が合うか、どの素材や技法がグラフィックを活き活きと見せるかを考えていました。ミニマリスティックな私のスタイルには、それらの要素が非常に重要です。例えば、黒い四角形は素材によってまったく異なる見え方をしますし、素材を間違えたら台無しになってしまいます。伝統的な印刷方法は、デジタル技術の発達により、今ではほとんど廃れてしまいました。石版印刷、スクリーン印刷、活版印刷なども、もはやアートなどの専門的な学校で教わる程度です。私は、学生時代に、これらの印刷技術に興味を持ちました。その気持ちは高まり、2015年の産休を経て、ファインアートの分野に転向しました。 

JJ: このポスターのデザインの依頼は、グラフィックデザイナーとして受けたのですか?

IB: 認識の食い違いが起こらないよう、まず初めに、作品としてのアートと製品としてのポスターの境界線についてオープンに話し合いました。そして、最終的に、アニバーサリーポスターは、私のビジュアルアーティストとしての活動に沿った製品を作り上げるという方向性で合意しました。私の作品は抽象的ではありますが、それは、主題を抽象化することではありません。いくつかの方法を試してみたところ、意外と簡単に道が見つかりました。アルテックが継承してきたグラフィックアイデンティティは純度の高いコントラスト、形、色に基づいているため、私の作品と相性が良く、満足いく形にまとめあげることができました。

Inka Bell 90th Anniversary Poster original artwork 1
シルクスクリーンの技術を応用し、青と黒のインクを重ねたオリジナルアート

JJ: 「パーテーション 100」をテーマにするアイデアはどこから来たのですか?

IB: アルテックの製品と私の作品の出会いのポイントについて考えていました。シンプルな形でありながらも、アルテックの製品を連想させるものはなんだろう、と。いくつかのアイデアを経て、「パーテーション 100」が相応しいという結論に至りました。それは単一の製品だけでなく、アアルト夫妻がデザインした製品群全体をも連想させるものだからです。「波」をポスターで表現するというアイデアは、最初から頭にありました。カラーについて。ブルーは黒と同様に、アルテックのアイデンティティを示す強い色だと感じました。私も、アアルト建築に使われた釉薬タイルを、インスピレーション源としてアトリエに保管しています。また、前景と背景のコントラストで遊びを加えました。そのすべてが上手くはまった瞬間は、本当に素晴らしい気持ちでした。

JJ: 三次元的なアートとして考えたということですか?

IB: 学生時代、ファッションデザインの勉強をしていたこともありました。その時に、服そのものよりも服のデザイン画に心が惹かれることに気づきました。二次元と三次元の間で遊ぶこと、常にそれに興味があります。アルテックヘルシンキで行われた個展のために、アトリエにあるレーザーカッターで何かできないかと考えました。それは、以前、紙の彫刻を作る際に使用していたものです。そこから、アナログな手法であるスクリーン印刷とレーザーカッターを組み合わせる手法を思いつきました。今回のポスターのアートワークに関しても、同じ技法を用いています。まずインクを何層にも重ねてスクリーン印刷し、その後レーザーカッターでインクの層と紙の一部を彫刻のようにカットしていきました。もちろん、凹凸は1ミリメートル以下のわずかなものですが、近づけば、その立体感を感じることができます。最終的に刷り上がったポスターは、このわずかな立体感と陰影が残る仕上がりになりました。

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JJ: かなり集中力を要するプロセスですね!あなたの作品の第一印象は非常にシンプルでミニマリスティックなのに、その背後にあるプロセスはとても複雑なのが興味深いです。

IB: はい、作業はとてもゆっくりです。試行錯誤が多く、細かな設定を調整したり、対象物をほんの少しだけ動かしたり、その繰り返しです。例えば、私の紙の彫刻は、まるで絵画のようだと言われたことがあります。今回のポスターは、紙の彫刻を制作したプロセスに近く、前景と背景の要素を織り交ぜることに苦心しました。何週間もかけたにも関わらず、うまくいかない時はとてもイライラします。最初に、アイデアやイメージが頭の中にあっても、計画通りに進まないことがほとんどです。しかし、反対に、自分の想像を超えた、より良い物に出会えた瞬間は最高です。新しい方法をトライし、材料や技術を新たな方法で組み合わせること、その努力が報われる瞬間です。

JJ: デザイナーやアーティストは、製作技術や手法について話すのを嫌がる傾向にありますが、あなたは自らの実践について率直に話してくれますね。とても新鮮です!

IB: はい、インタビューではいつも話しすぎてしまいます!技術にばかり焦点を当てすぎないよう気をつけていますが、作品製作のために、技術は重要な部分です。そして、私は、他人が私の作品をどう解釈するかにはあまり興味がありません。ストーリーは大切ですが、私にとっては実践と視覚的な側面の方が重要です。私はただ、純粋に芸術そのもののために行動しているからです。現在は、コンピューターで直線的な輪郭と幾何学的なパターンを描いていて、その手法とパターンは、版画という印刷技術と相性が良いと感じます。しかし、もし私が、ハンドドローイングで絵を描いていたら、生まれる作品も手法も大分異なっていたと思います。

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JJ: 将来的にあなた自身が変わるという可能性はありそうでしょうか?

IB: 最近よく考えることです。特定の技術に固執しすぎないのも良いかもしれないと感じています。試してみたい技術は無限にあります。例えば、公共空間のアート作品を作る時には、フィンランドの冬に耐えられる材料や、子供たちが触れることができる材料を探します。しかし、今現在まで試してきた技術や素材、その効果は、ある程度知り尽くしています。次の個展を行う際には、間違いなくこれらの技術を基盤にして製作をするでしょう。

Inka Bell 90th Anniversary Poster original artwork 3

話題は再びインカ・ベルのアトリエに戻りました。彼女は近くにもっと広いアトリエが欲しいと思っています。もちろん、最新作のポスターを飾るスペースも必要ですし、現在のアトリエは問題が多く、制作に支障をきたしていると言います。しかし、一方で、引っ越すことにも問題があるそうです。「引っ越しは大変すぎます!ここにはたくさんの材料、道具、作品、機械があり、ただ箱に詰めれば良いというものではありません。ずっとここにいたいです。私はいつも、作品製作の時間と、家族との生活の時間をより明確に分けたいと思っています。自分ではうまくできているつもりですが、個展が近づいてくると家族には感づかれてしまいます。ひとつのアイデアが浮かぶやいなや、頭の中は24時間365日休むことなく動きだし、アトリエを出たとしても、スイッチを完全に切ることができません。」それこそがインカ・ベルを次のプロジェクトへと突き動かす衝動だと言えるでしょう。

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