アルテック製品について
アルテック製品の技術、歴史、素材、製法、流通までをご紹介します
アルテックの家具は、アルヴァ・アアルトら創業者のモダニズムの哲学に基づき、手作業による一点物ではなく、多くの人の手に渡る量産品として、工場で製造されています。しかし、完全機械によるオートメーション化とは異なり、素材の選別から仕上げまで、熟練された職人のクラフトマンシップと合理的な機械化を組み合わせた製造工程により作られています。耐久性に優れた高い品質、人と環境、社会に配慮した倫理的かつ持続可能な家具生産はアルテックとパートナー企業を繋ぐ大切なビジョンです。
アルテック製品のほとんどは、フィンランド産の木材を使用しています。フィンランドの森林の多くは野生のものではなく、国や地域、個人が手をかけて育んだものです。アルテック製品の素材で多く使われているバーチ材や一部の製品で使われているパイン材は、計画的に伐採され、丁寧に加工され、まるで長い旅のようにさまざまな工程を経て、家具の形となって私たちの暮らしに届けられます。
アルヴァ・アアルトは、スチールを用いることが一般的であったモダニズム家具に対して、温かみのある自然素材を用いた独自のモダン家具を構想しました。1920年代後半より、アルヴァ・アアルトは家具職人のオット・コルホネンとともに、曲げ木の技法の開発に着手し、何十年もかけて改良を重ねました。アルテック製品の多くは、現代でも彼らが開発した技術を用い、当時と同じ「A-ファクトリー」でて作られています。
ラメラ曲げ木
木目を同じ方向に重ねたバーチ材の積層合板を「ラメラ」と呼びます。アルヴァ・アアルトらは、このラメラを曲げる「ラメラ曲げ木」の技法を家具に応用しました。この技法を家具に用いることで、滑らかな手触りと外見を保ちながらも、有機的なカーブを描く柔軟性とスチールに匹敵する強度を実現しました。ラメラ曲げ木の技法からは、数種類のスタンダード部品が作られました。ループ型は「41 アームチェア パイミオ」、「901 ティートロリー」、「112 壁付け棚」などに応用され、片持ち構造のカンチレバー型は「400 アームチェア タンク」などのラウンジチェアのフレームとして使われています。
建築における柱の妹分 -「L-レッグ」
「L-レッグ」は、アルヴァ・アアルトが1930年代初めに開発し、当時、特許を取得した曲げ木の技法です。無垢材の先端から曲げる部分まで切れ目を数ミリ間隔で入れ、その間に薄いベニヤ板を挟み接着した後、熱を加えながら曲げるという製法です。L-レッグは、シンプルな工程でありながら、厚い無垢材を曲げることができ、さらに頑丈で安定した仕上がりになります。L-レッグのことをアルヴァ・アアルトは「建築における柱の妹分」と呼びました。さまざまなサイズのL-レッグをスタンダード部品としてシステム的に応用することで、「スツール 60」、「69 チェア」、「153 ベンチ」、そして「アアルト テーブル」まで、アルテックの製品コレクションの多種多様な製品が生み出されました。
アルテック製品のほとんどは、フィンランドのトゥルクに位置する「A-ファクトリー」という自社工場で生産されています。7000㎡を越える工場の中で、「L-レッグ」や「ラメラ曲げ木」など、独自の曲げ木の技法を必要とするアルヴァ・アアルトの製品が、現在もほぼ同様の製法で作り続けられています。製造過程で出る端材は座面の中材に、おがくずなどの生産廃棄物は工場の暖房システムの燃料として使用され、資源の無駄を最小限に抑えるよう努めています。
アルテックの全ての製品はヨーロッパの安全基準を満たしています。また、A-ファクトリーは、品質(ISO9001)、環境(ISO14001)、木材と森林管理(FSCやPEFC)の基準に準ずる認証を得ています。
アルテックは、A-ファクトリー以外のフィンランドの工場でも製品の生産を行っています。アルヴァ・アアルトコレクションの「611 チェア」や、イルマリ・タピオヴァーラの「ドムス チェア」など、曲げ木の技法を用いない製品については、信頼できる技術を持つフィンランド国内のパートナー工場で生産されています。照明器具の中でフロアスタンドも、フィンランドの小さな工場で生産しています。フロアスタンドやシーリングライトのシェードは、精密な手作業が必要とされるため、長年の深い信頼関係と経験を持つこの工場がすべての生産を担っています。
トゥルクの工場で製造される曲げ木
製品コレクションの大部分がフィンランド産の木材を用いているアルテックは、出来る限りフィンランドまたはその近郊に生産拠点を確保する努力をしています。しかし、アルテックが一番大切にしていることは、環境に配慮した上で効率的に製品を生産し、高品質な製品を適正価格で世界の暮らしへと届けることです。自らに厳しい基準を設け、アルテックと同じ想いのもと、ものづくりに励む工場は、国を越えて尊敬すべき専門家であり大切なパートナーです。例えば、部品の生産パートナーを選ぶ際には、CO2の排出量を抑えるために、物流ルートが整備されているところを優先しています。アルテックは、多くのパートナー工場と長年の協業により深い信頼関係を築き、定期的に現地を訪れて、製品開発過程の確認や見直しに取り組んでいます。
アルテック製品のテーブルの天板や生地、部品の一部はドイツで製造されています。また、無垢材部品と照明器具の一部は、北イタリアの職人が手掛け、プリントのコットン生地についてはバルト諸国にも工場があります。ポーランドとハンガリーの長期パートナーは、家具部品を製造しており、デンマークの職人は、アルテックが製品に使用する天板や座面のリノリウムを製造しています。ポルトガルは良質の粘土が豊富で、古くは13世紀から続く熟練した陶芸職人や陶芸家を多く有しています。素材が確保できる土地から、なるべく近距離に工場があることも、環境と持続可能性への配慮という観点から大切です。アルテックは、常に最高の知識と技術を持つ職人のもとに出向き、同じ哲学や価値観を共有する人たちとともに製品づくりに勤しんでいます。
アルテックは、創業から85 年以上にわたり、地元フィンランドの自然素材を調達し、自然の循環を妨げることのないサスティナブルな方法を用い、耐久性に優れた製品を作り続けてきました。また、原材料の調達先、製品の製造方法、その過程で生じる倫理的・環境的影響について、可能な限り透明性を保つことを目指しています。適正価格で手に取りやすく、修理や張り替えも容易、暮らしの中のあらゆる場面で多用途に使えるアルテックの製品は、時を越えてこれからも私たちとともにあります。
安全性と耐久性に優れ、実用性と機能性を兼ね備えた持続可能な美しいデザインを作り続けること、それこそがアルテックの哲学です。アルテック製品の材料となるバーチ(白樺)の木が生きた50年から80年の年月に敬意を表し、家具に姿を変えた後も、私たちの暮らしの中で生き続けて欲しいと願っています。